優性遺伝子・劣性遺伝子について

SDGsの17の目標に関連して、命の大切さ、種の存続に対して、今回は、近親交配について記載したい。

 

近親交配(きんしんこうはい)とは、親縁係数が0でない個体同士を掛け合わせること。内系交配インブリード(Inbreed)、インブリーディング(Inbreeding)、クロスとも。同一個体で行われる場合は、自家受精(植物の場合は自家受粉)という。これは一般的には好ましくないものとされ、生物にはそれを避ける仕組みを持つものが様々な群で知られる。

 

近親交配の特徴は、両親の血縁が近いため、その両者が共通の劣性遺伝子を持っている可能性が高くなることである。ここで言う優性劣性とは、形質の優劣の意味ではなく、遺伝学の用語である。有性生殖をする生物の多くは(性染色体などの例外を除き)遺伝因子一つにつき一対(二つ)の遺伝子を持っている。一方は父親から、もう一方は母親から受け継いだものである。どちらか片親からその遺伝子をもらっただけで形質に現れる遺伝子を優性の遺伝子、両親から同一の遺伝子をもらった場合のみにその形質が現れるのを劣性の遺伝子という。

 

例えばABO式血液型では、A型とB型の遺伝子が優性、O型の遺伝子は劣性である。表現型(一般的に言う血液型)のO型は両方の親からO型の遺伝子を受け継がなければ発現しない(A-OではA型が、B-OならB型が発現し、O-Oの場合のみO型が発現する)。また耳垢は湿性が優性で乾性が劣性である。遺伝子の中には(耳垢のように)生存に無関係のものが多いが、有利・不利をもたらすものもある。それらはそれぞれ優性の場合もあれば劣性の場合もある。集団内で見れば、生存に不利な遺伝子のうち、優性のものは高い頻度で発現する。そのような遺伝子を受け継いだ個体は生存と繁殖上不利であるから自然選択によって取り除かれる。

 

一方劣性の不利な遺伝子は、その発現のしにくさゆえに取り除かれにくい。そのため、現生生物のほとんどの種では生存上不利な遺伝子は、突然変異を除けば、おおむね劣性遺伝子として伝えられている。またそのような遺伝子を持つ系統は、持たない系統に比べて繁殖上やや不利であるため(子孫にはある程度の割合で発現する者が現れるので)、集団全体から見れば劣性の不利な遺伝子の割合も少数派になるのが普通である。

 

個体について言えば、一般的な交配(血縁関係の遠い個体との交配)ではそのような少数派の劣性遺伝子を両親とも偶然に持っていることは少ない。親の一方から少数派の遺伝子を受け継いでも、もう一方からそれを打ち消すような優性の遺伝子を受け継ぐ可能性が高く、結果としてその形質が子供に現れる可能性は低まる。しかし近親交配の場合には、両親が同じ劣性遺伝子を持つ可能性が高いため、その劣性遺伝子が子に伝わって発現する可能性が高まる。端的に言えば先天性の病気や障害が起きやすくなるのである。

 

近親交配を繰り返した場合には劣性遺伝子という形で隠蔽されている、障害をもたらしたり致死性のある遺伝子が顕在化しやすく、内臓疾患や骨格異常などの先天性異常が発生しやすくなる(近交退化)。ただし、すべての障害性、致死性の遺伝子が劣性遺伝子というわけではなく、例えば骨格異常の遺伝子は優性形質であることも多い。希少野生動植物種の場合、その個体群がある程度以上小さくなると、必然的に近親交配が起こりやすくなり、個体の生存、あるいは子孫を残すのに不利な遺伝子が顕在化する。そのためそれぞれの種には絶滅を回避し自然状態で種を存続できる最低限の規模があり、生存個体数がその規模を下回っているかどうかも保護の判断基準の一つである。

 

個体数が充分な自然状態では、一般に近親交配は起きにくい(全く起きないわけではない)。それは多くの生物が近親交配を避けるメカニズムを持っているからである(より厳密に表現すれば、近親交配は劣性遺伝子の発現という問題の他に遺伝子の多様性の低下をもたらす原因となり、伝染性の病気などへの耐性が低くなる。そのため近親交配を避けるメカニズムを持った個体(あるいはグループ)が自然選択によって残り繁栄した)。 実際に、生物それぞれに、様々な形で近親交配を避けるようなしくみが知られている。被子植物では、多くの花に雄蘂と雌蘂が共存するが、どちらかが先に成熟するなど、自家受精を妨げるようになっているものも多い。しかし、一部のダニなど特殊な環境で生きる昆虫では、ほとんど近親交配のみで繁殖していることが知られている。この場合、(突然変異を考えなければ)全ての遺伝子のホモ化が行われ、致死性の形質を持つ遺伝子は淘汰されていると考えられる。

 

インブリードについて

品種改良において望ましい形質が頻度の低い劣性遺伝子に基づいている場合、その遺伝子のホモ接合によって、形質を顕在化して固定する効果があるために、近親交配が有効な手段となる。競走馬や食用牛の品種改良の際に、親の持つ好ましい形質を簡単に導入する手段として広く用いられている。たとえば望ましい形質を持つ個体が出現した際、その形質を再び出現させるためにその親と交配させるのは戻し交配といって品種改良における手法の一つとされる。

 

生物学においては、マウスなどの実験動物から遺伝的に均一な集団を得る目的で用いられる。そのようにして得られた系統は、時に近交系と呼ばれる。マウスにおいてはイギリスのキャッスルの元で近交系マウスの樹立が行われ、癌に関する遺伝子研究等において不可欠となった。ペットの近親交配については野放しに近い状態が続いていたが、先天性異常を持つ個体の増加につながるとの批判があるため、近親交配がおこなわれた場合には血統書を発行しないなどの措置がとられつつある。

 

他方競走馬も近年は近親交配が避けられる傾向にある。もっとも競走馬の近交係数(親縁係数)は、もともと他の家畜に比べれば低いほうで、コロナティオン(両親の片親が同じ、近交係数約14%)のような近交は例外的である。日本ダービー史上最も近交係数の高い馬は約4%の値を持つフサイチコンコルドだが、この馬にしても2005年に北海道で生まれた雌牛の平均近交係数5.9%よりも低い値に過ぎない。また、かつては逆に8代以内に共通祖先がいないなど自然条件下ではまずありえないであろう配合も試されたがこちらも現在では無意味だと考えられている。

 

・人間の近親交配

歴史的に近親婚は、地位や財産の一族外への散逸を防ぐため、東洋・西洋とも王族・貴族間では慣例的に広まっていた。有名な例では、スペイン・ハプスブルク朝では、血族同士の結婚を繰り返し、17世紀末には虚弱な人物ばかりが誕生するようになり断絶するに至った。その典型例である最後の王カルロス2世は、伯父と姪の婚姻の結果であるとみられている。ベラスケスの肖像画で知られる同母姉マルガリータ王女は、父方の従兄・母方の叔父にあたるレオポルト1世と結婚し、夫妻の間に生まれた4人中3人の子が1歳未満で夭折(死去)した。

 

日本でも近親婚の風習は戦前までよく見られた。戦後に制定された民法により、三親等内の婚姻は禁止されている(民法734条)が、近親婚の風習が残る地域もある。古代においては、皇族は、豪族・貴族に対して、神聖さを強調するために、近親婚が当たり前のように行われた。例えば、天武天皇は、兄の天智天皇の皇女で、天武からみればめいである持統天皇を皇后とし、その間に生まれた草壁皇子を皇太子として、その男系子孫に皇位を継がせようとした。しかし、天武天皇持統天皇の男系子孫にあたる、草壁皇子文武天皇基王は、近親婚の結果としての虚弱体質が祟り、早死にしてしまう。聖武天皇は50代まで長生きするが、生涯病弱であった。また世界的にみて、いとこ婚のような比較的血縁の近い者どうしの婚姻の頻度が高い地域特に中近東、ロシア系ユダヤ教徒内にあるが、遺伝的背景による精神的または体格的障害児が頻繁に生まれやすくなることが報告されている。現在のロシア、ユダヤ教ではこの風習を完全に控える事が一般的である。

 

 

・なぜ植物は自家受粉するのか 以下、こちらより抜粋

中世の一部の貴族社会を除いて,近親相姦はほぼ全世界的にタブーとされている。 これは有害な劣性遺伝子が子孫に受け継がれていく確率が高くなるからだと言われている。 ギリシャ神話を除いて,近親相姦が積極的に行われている文化はないといってよいだろう。 わざわざ神話を持ち出すまでもなく,近親交配を避ける傾向は自然界の様々な種で見られる。 

 

遺伝子には,優性遺伝子と劣性遺伝子とがあることは先にも記載した。 例えば,茶色のひとみを持つ両親から,青いひとみを持つ子が生まれたりする。 これは青いひとみの遺伝子が劣性だからであり,優性遺伝子の方が発現するためであるとされている。このようにすべての劣性遺伝子が有害であるわけではない(青いひとみであろうとも生存にとって不利になることはない)。かように,有害な劣性遺伝子はあまりないとも言える。 しかし,逆は必ずしも真ならずで,有害な遺伝子のほとんどは劣性遺伝子なのだ。 この理由は,優性の遺伝子はすぐに発現するため,自然選択の影響をもろに, 大きく受けてしまうからである。

 

こうして,ある遺伝子が有害であれば,そしてそれが優性であれば, すぐに個体群の中から消えてしまう運命にあるのだ。 しかし劣性遺伝子であれば,優性遺伝子の陰に隠れていることができる。 家畜や観賞用植物のブリーダーは近親交配の危険性には気がついているはずだろう。にもかかわらず,植物は自家受精をする。自家受精を行った場合, 父(雄しべ)と母(雌しべ)は遺伝的に同一だから有害なはずだ。 遺伝的な多様性を失った個体群は,環境の変化に適応する能力を失い, 全滅の危機にさらされることにもなる。 では,なぜ植物は自家受粉するのだろうか?理由は2つほど考えられる。

  1. 自家受粉の方が他家受粉よりも効率がよい。すなわち,確実に受粉できて子孫を残せるチャンスが大きい
  2. 有害な遺伝子を持たない個体群にとっては自家受粉は続きやすい

2番目について補足する。自家受粉に代表される近親交配は, 劣性遺伝子を発現しやすくするため,悪い遺伝子をいぶり出すという効果があるのだ。 ブリーダーはその効果を知っているのだろう。植物や家畜の近親交配を繰り返し (悪い遺伝子を取り除くため), その後,遺伝的多様性を取り戻すために, 他の遺伝子を持つ個体と交配させるということを繰り返すのである。

 

長い進化の歴史 (有性生殖が始まったのは15億年前と言われている。 なぜ有性生殖が始まったのかはナゾだが,有性生殖になると進化が加速されることだけは確実である。)の中で, 植物は自家受粉して子孫を増やし, ときどき他家受粉して遺伝的多様性を確保するという進化戦略を採用することで, 今日に至ったということであろう。 以上が,自家受粉が必ずしも進化的に不利ではないという理由のように思われる。不利なフリして, 実はそんなことはないというわけである。 植物は決して, 目先の子孫を残す効率の良さだけにフリ回されて自家受粉を繰り返しているわけではなさそうだ。

 

 

絶滅危惧種の保護

絶滅危惧種で国の天然記念物に指定されているヤンバルクイナのゲノム(全遺伝情報)の解読に、国立環境研究所(茨城県つくば市)などの連携研究グループが成功した。今後、個体同士の遺伝的関係性や病気耐性の解明などを通してヤンバルクイナの保護・保全に役立てられることが期待されている。同研究所生物・生態系環境研究センターの大沼学主任研究員は「個体の遺伝的な多様性を維持しながら繁殖させるために必須の情報になる。登山で言えば地図を手に入れた状況だ」と説明した。国内にのみ生息する絶滅危惧種のゲノム解読自体は初めて。1日、遺伝情報の構成元である塩基配列データを収集する「DDBJ(日本DNAデータバンク)」で公開した。同研究所のほか京都大学酪農学園大学が研究に携わった。



ゲノム解読は2011年ごろから国立環境研究所が本格的に着手した。凍結保存されていたヤンバルクイナ2個体の細胞を使い、次世代シーケンサーと呼ばれる装置で塩基の配列を解析するなどした。ヤンバルクイナの保護現場関係者からも期待の声が上がる。環境省やんばる野生生物保護センター(国頭村)の山本以智人自然保護官は「病気になりやすいなどで飼育が難しかった個体も残せるかもしれない」と話す。個体間の近親交配で「血が濃い」状態になると繁殖が難しくなるとされる。国頭村世界自然遺産対策室の担当者は「(遺伝情報が知れることで)安定した繁殖に役立つ」と話す。

ヤンバルクイナは本島北部のやんばる地域のみに生息しており、1981年に新種として論文に記載された。現在は約1500羽いると推定されている。環境省は2006年に同種を最も絶滅の恐れの高い「絶滅危惧IA類」に分類した。

 

 

このように、あらゆる生命体の遺伝子配列が解析されるようになった今、種の保存として、血が濃くなりすぎないように配慮しつつも、強い種を残すという近親交配もあり得るということなってくる。もしかしたら、人間も同様の方向性になることもあるかもしれない。強い人種のみが生き残る時代になるかもしれない。そうすると、自分の遺伝子配列を解析し、どんな相手であれば強い種が残せる確率が高くなるか?というような戦略的結婚なども起こりえるかもしれない。

 

いずれにしても、病弱で身体が弱いというのは、遺伝的な要素も十分にあるため、その病弱な遺伝子を排除するための戦略というようなビジネスも生まれてくるかも知れない。我々が今できることは、遺伝なる知識もしっかりと勉強し、動物や植物だけでなく、人の遺伝についても勉強していくことが重要なのかもしれない。