第5次元:産業界の高齢者問題について

先に第5次元:産業界について記載した。今回も引き続き見ていきたい。今回は、高齢者の就労に関してを記載したい。以下、こちらより抜粋

 

1.65 歳以上の高齢者就労の総合的な考察 

(1)高齢者就労の現状 

現在の高齢者の就労状況をまとめてみると、まず、高齢者側では、今回の調査対象者の4割以上が働いていると回答し、「65~69 歳」に限ってみると半数以上の人が働いている現状がある。 一方、事業所側では、7割以上の事業所が人手不足の状況の中、定年を定めなかったり、66 歳以上に設定したり、また、定年後の継続雇用などにより、4割の事業所で 66 歳以上まで働 くことができる制度があるなど、現状、78%の事業所で 65 歳以上の人が働いている。 

 

こうした結果から、高齢者就労の現状としては、60 歳代後半では半数以上の多くの人が7割 以上の事業所において雇用されて働いており、また、高齢者の中には自営業・個人事業主とし て働いている人も2割程度いることから、65 歳以上になっても働くことができる環境が、少な くとも“量的”には一定数、確保されていると評価できる。 

 

 (2)高齢者の働く意欲と事業所の雇用意向 

今後の高齢者の就労意欲と事業所の雇用意向をまとめてみると、まず、高齢者側では、「今後、 働き続けたい・働きたい」意欲がある人は約6割ある。その多くは、現在働いていて、約7割の人が働いていることに満足していることなどを理由として、8割以上の人が働き続けたいと 思っていることが要因としてあるが、現在、働いていないが、今後は働きたいと思っている人 も全体の 2 割弱存在するなど、働く意欲がある高齢者の割合は高い。 

 

一方、事業所側では、7割の事業所が高齢者を「活用していきたい・活用する必要がある」 と回答するなど、すでに多くの事業所で高齢者を雇用する意向をもっており、今後も人手不足 などを背景に高齢者の活用意欲はさらに高まることが予想される。その内容としては、社外からの新規採用というよりは、まずは、現在、自社および自社グループで働いている従業員の継 続雇用を中心に拡大していくと思われるが、今後は社外からの新規採用を実施する事業所も増 えるのではないかと思われる。 こうした結果から、就労意欲を持った高齢者が多く、また、事業所の活用意欲も高いことから、仕事の内容、勤務条件、マッチング方法など、就労に関わる環境を整えることで、働きた いと思う高齢者に働く場を提供することができると考える。 

 

(3)高齢者就労が拡大する可能性がある分野 

①業種別 

高齢者の就労が拡大する可能性がある分野としては、まず、業種別でみると、高齢者側では 「その他のサービス業」や「製造業」を希望する人が多いが、事業所側でも新規採用も含めて 積極的に活用したい事業所があるなど、マッチングしやすい分野であることが予想される。 一方、事業所側で活用意向がある事業所が多い、「運輸・郵便業」「宿泊・飲食業」「医療・福祉」では、働くことを希望する高齢者の割合がそれほど高くなく採用難が予想されるため、マ ッチング方法に工夫が必要といえる。 

 

②職種別 

職種別に高齢者就労が拡大する可能性がある分野をみると、「生産工程(製造作業)」「事務的 業務」「運転・配送・包装業務」については、高齢者側で希望する人の割合が比較的高く、また、 事業所側でも高齢者が行うことができる業務と考えており、マッチングしやすいことが予想される。「施設管理・清掃・警備業務」も同様の傾向が見られる。 一方、「接客サービス業務」では、希望する高齢者の割合が最も高くなっているが、事業所側では1割程度に止まっており、また、「農林水産作業・業務」も同様の傾向が見られる。

 

2.高齢者就労モデルの構築に向けて 

(1)事業所における継続雇用のさらなる拡大 

現在、78%の事業所で 65 歳以上の高齢者が雇用されており、そのうち 61%が自社やグルー プ会社内での継続雇用や再雇用であるという実態から、現状、事業所における継続雇用が高齢者雇用のボリュームゾーンであることは事実である。また、今後、定年延長や廃止、継続雇用 の上限年齢の延長や廃止など、事業所内で高齢になっても働き続けられる環境が拡大していく ことが予想される。 

 

これらのことから、高齢者雇用制度を充実させようとする事業所や高齢者が働きやすい職場へ改善しようとする事業所などへの支援は引き続き重要な施策になるものと考える。たとえば、 現状、フルタイムで働いている高齢者が 76%の事業所でいるとしているが、高齢者は無理のない働き方を望む人も多く、事業所内の継続雇用者の就労環境の改善を事業所に促していくよう な施策も重要となろう。

 

 

(2)短時間・短日数または請負式など柔軟な働き方の導入 

今後、働きたいと考えている高齢者の 72%は週4日以下の短日数労働を希望しており、また、 同じく 70%の人が一日6時間以下の短時間労働を希望している。仕事を選ぶときに体力的にも 精神的にも無理なく働けることを重視する高齢者は 92%であり、高齢者の意識として“無理の ない働き方”を求めていることが大半の人の就労意識といえる。 ところが現状は、高齢者の 53%は週5日以上、また、同じく 39%は一日7時間以上働いていて、現役世代よりは短時間・短日数ではあるが、フルタイムで働く人が多い。

 

また、事業所に おいては、前述の通り 76%の事業所においてフルタイムで働く高齢者がいるとしている。 ゆえに、これから高齢者が生涯現役で活躍できる社会にしていくためには、高齢者の希望に 沿って、短時間・短日数でも有意義に働くことができる仕組みを構築していく必要がある。さらには、1日の就労時間や1週間の就労日数に縛られない働き方として、いつまでにという期限・納期を定めて、それまでに決められた水準の仕事を成し遂げればよいという請負式などを導入することにより、働き手にとって働き方の裁量が大きく、企業にとっても時間あたりの効率性(コスト)から解放されるなど、さらに柔軟な働き方の導入を検討すべきである。 

 

そのためには、事業所において業務内容の見直しや人事制度の改善、業務運営上の工夫など、 多くの改善すべき事項が生じることが想定される。事業所においては、高齢者を活用していく 上での課題として、50%が高齢者に適した仕事の確保を、また、59%が勤務時間・勤務日数などの制度や工夫を、そして 46%が賃金など処遇に関する制度や工夫を挙げている。こうした課題を解決しようとする事業所を支援していく施策が求められる。

 

 

(3)“気軽な就労体験”の機会提供 

現在働いている人のうち、「今後も働き続けたい」が9割弱、また「働く意欲があって働いて いる」が7割程度を占めている。ただ、今後働きたい業種・職種をみると、ほとんどの人が、 現在働いている業種・職種と同じであり、新たな仕事分野へのチャレンジといった広がりはみられない。こうした働き手側の業種・職種志向のままでは、「建設業」、「運輸・郵便業」、「宿泊・ 飲食業」、「医療・福祉」等々現場での人手不足が著しい業種とのマッチングは依然厳しいものとなろう。

 

その大きな要因として、

①高齢者への就労アンケートの自由意見でも多く寄せられたようにハローワークなどの公共機関でさえも「働きたくとも高齢者というだけで働き口がない・難しい」といった年齢による門前払いの状況がみられる、

②企業からの人手不足の仕事内容に関する具体的な情報が圧倒的に不足している、

③働き手にとってみれば、まったく経験のない仕事に対して収入を得るだけの働きや能力が自分にあるかといった点で二の足を踏みやすいなどが挙げられる。 

 

そうした中で、農業関係へのヒアリング結果では、年齢に関係なく「経験者」であれば歓迎 する作業が少なからずあり、そうした働き手の「経験」に関する情報は貴重であるとの意見が多かった。もちろん、経験というのは、何かの機会を得ない限り積むことのできないものであ り、そうした機会がない限り、永遠に経験者には成り得ない。 幸いにして、企業へのアンケート結果では、就労体験(インターンシップ)を希望する高齢者の受入れについては、約4割の事業所で可能であるとの回答を得られた。また、農業関係へ のヒアリング結果においても、たとえば三ケ日農協ではJAが保有する試験農場で収穫の研修 を手軽に参加できる仕組みを用意している。

 

個別企業としての対応が難しい場合、協会や組合などが経験機会を制度として導入している例は参考となろう。 望ましい姿としては、まずはボランティア的に作業を手伝うなど、就労意欲のある高齢者に対して、協会・組合などを通じて「気軽に参加できる体験」の機会を幅広く各業界が提供して いく体制を行政が応援していくことである。また、企業側も「経験」として求めたい作業・業務について、高齢者の視点から作業・業務をより細かく分解するなど“業務の切り出し”を積極的に行い、期待する仕事内容などの情報を働く意欲のある高齢者に明確に開示していくことが必要と考える。そのためには、企業を積極的に訪問し“業務の切り出し”意識を醸成していく公的な支援アドバイザーを組成するのもひとつの方策と思われる。

 

 

(4)人手不足の激しい業界への重点的モデル形成 

今回の調査で確認できた高齢者の就労意欲と事業所の活用意向などを参考として、特に、多 くの高齢者の就労が期待できる分野を抽出して、重点的に高齢者就労モデルの構築に向けて検 討していくことが有益である。 たとえば、「医療・福祉」分野では、人手不足の状況にある事業所の割合が高く、短時間・短日数で働いている高齢者がいる割合が高く、継続雇用ではなく社外から新規雇用している事業所が多く、今後も高齢者を積極的に活用していきたいとする事業所が顕著に多い。

 

医療・福祉の事業所においては、高齢者の能力活用のあり方として、93%の事業者が短時間・短日数での雇用を挙げていることから、おそらく業界としても、円滑な就労モデルの構築は喫緊の課題となっていると思われる。 高齢者向けの業務の抽出や人材の採用方法、短時間・短日数勤務で円滑に業務運営するノウハウの構築等、事業所の意見を聴取しながら医療・福祉分野の高齢者の就労モデルを具体的に 検討していくことが考えられる。その際、単独の事業所だけでなく、複数の事業所で連携した仕組みにすることも考えられよう。

 

 

(6)生きがい・健康づくりと連携した就労のあり方 

今後、働きたいと思う理由では、45%の高齢者が健康のためとしており、また、行うことが できる社会参加として、40%の高齢者が自分の趣味や好きなスポーツ、健康やいきがいづくりの活動を挙げている。すなわち、生きがい・健康づくりが主たる目的であり、その手段の一つ として就労を考えている高齢者も存在すると思われる。 

 

どのようなことに生きがいを感じるかは人によってさまざまであるが、生きがい・健康づく りと連携した就労のあり方を考える上で、たとえば、農業分野は、収穫物が入手できることや 屋外で行う農作業など、生きがいや健康づくりにつながる要素が多い分野であるといえる。 今後、働きたいと思う業種で農林水産業を挙げた高齢者は、建設業、運輸・郵便業、宿泊・ 飲食業、公務などよりも多かった。職種においても同様の傾向があり、農林水産作業・業務は、 建設業務、医療・介護業務、セールス営業、研究・開発・設計等専門業務などよりも多くなっ ている。 

 

また、農業分野を対象としたヒアリングでは、繁忙期の人手不足が顕著であるが、収穫期な どの短期雇用が中心で、作業が天候に左右され、時給が低いことなどから、労働者の確保に苦 労している現状が確認される一方、多くの農作業が高齢者でも行うことができることや、農業分野特有の労働条件は高齢者の方が対応しやすいとの意見も聞かれた。 このように、農業分野は、高齢者は就労意欲が高く、農業側では活用意向あることから、生 きがいや健康づくりと連携した就労モデルを検討する価値があろう。 

 

 

このように、農林水産業は、今後の高齢者の就労先として有望視されており、産業界としても全体で取り組むことで解消していかねばならないのであろう。

 

高齢者を新たに雇用し活用していくことは、健康で生き生きとした高齢者の増加による社会負担(医療・介護費用)の減少とともに、税収の増加にも寄与する。しかしながら、事業所向 けアンケート結果でみたように、人手不足を喫緊の課題としている多くの企業は、まずは若年 層の確保の可否を前提に、若年層の採用が難しい場合に高齢者を活用するというスタンスであり、それは「豊富な経験や知識・高いノウハウを活用」できる高齢者に期待する半面、「体力や 病気などの問題がある」や「意欲や能力の問題があることも多い」などを理由に挙げていることにも表れている。

 

そうした中で、高齢者の活用について企業側の雇用モチベーションを高めていくためには、(2)短時間・短日数または請負式など柔軟な働き方の導入や(3)“気軽な就労体験”の機会提供で掲げたように、企業が高齢者の活用を常に意識してもらうための企業訪問を行うなど積極的な働き掛けが必要である。その際のアピール手段として、たとえば、新 たに高齢者を雇用した企業のリクルート費用の負担や高齢者に支払う賃金の一部を補助していくなどのインセンティブを、既に高齢者を雇用し活用している企業の実情等に配慮しつつ検討 していくことも必要と思われる。