第1次元:人間のDNAの転写を参考にする②

先に、人間のDNAについて記載した。

細胞1つ1つが複雑なことをしている

わけではなく、単純な動作だが、

ある条件が来たら教えてね、という

ようなシグナルを発信することで、

組織となり、器官となり、器官系とな

っているのだ。

よって、その条件設定が人間の複雑

な機能を可能にしているということが

言える。決して細胞1つ1つが複雑な

ことをしているわけではないのだから。

 

以下、「人体はこうしてつくられる」

著:ジェイミー・A・デイヴィスより抜粋

 

例えば、神経管は周囲の組織から

来るシグナルによって分化するが、

その神経管も反応の一部として

シグナルを出し、それによって周囲

の組織も分化する。

比較的単調だった胚に細かい模様

が描かれていくプロセスは、このよう

に細胞間の豊かな会話によって支え

られている。

 

胚のどこを見ても、ほぼ例外なく、

隣接する組織同士がさかんに会話

を繰り広げている。胚全体にわたっ

て組織は互いにシグナルを送り合い、

シグナルに近いか遠いかといった差

を利用して自らを種類の異なる細胞

群に分割していく。

元の均一な組織がいくつかの領域

に分割されると、今度はその境界線

が会話の場になり、そこが異なる

シグナルを出すようになれば、同じ

方法でさらに細かい領域への分割が

可能になり、この繰り返しはいくらで

も続く。これは画期的なメカニズムで

あり、そのために多くの遺伝子が使

われていても当然だと思える。実際、

人の遺伝子のおよそ五分の一が、

シグナル伝達に関連するタンパク質

合成のために割り当てられている。

 

このメカニズムには組織をいくらでも

細分化できるという強みに加えて、

誤差に強いという強みもある。胚が

こうした会話を利用しないとしたら

どうなるかを考えてみてほしい。

各組織が単独で、周囲の組織の

位置とは無関係に分化していく胚、

たとえば細胞が設計図から指示を

読み取るような胚のことである。

その場合、各細胞の位置がほんの

少しでもズレると、時間の経過や

胚の成長とともに誤差がどんどん

蓄積され、隣り合っているべき組織

や近くにいるべき細胞群同士が離

れてしまい、発生は失敗する。

体がとても小さくて構造もシンプル

で、組織の種類も少なく、重要な

接合部も少ない生物なら「会話」が

なくてもなんとかなるかもしれない。

だが細胞の種類が数百あり、しか

もそれらが正確に作用し合わなけ

ればならない生物となればもう論

外である。

 

これに対して組織同士がシグナル

をやりとりするシステムなら、組織

内の特殊化する領域の位置は、

シグナルを出す隣接組織からの

距離によって自動的に決まるので、

組織の位置が少々ズレても問題

ない。システムは自らを環境に合わ

せることができ、誤差も蓄積されず、

むしろその都度修正していく。

つまり「どうでなければならないか」

ではなく、「実際にどうなっているか」

に基づいて調整していく発生メカニ

ズムであり、誤差が生じても、それ

が極端に大きなものでないかぎり、

胚は十分に対処できる。

 

タンパク質という言語での「会話」を

組織の細分化に利用するやり方は、

動物の発生方法そのものにも影響

を及ぼしている。タンパク質がある

程度の濃度で広がる範囲は生物

物理、生物化学の法則によって決

まり、ほとんどの場合二〇分の一

ミリ(50ミクロン)程度である。

ということは、ある細胞群を濃度

勾配を使ってパターン形成するに

は、その時点での細胞群の広がり

が二〇分の一ミリ程度にとどまって

いなければならない。胚の発生過程

では実際にそうなっていて、神経管

の背側と腹側の間隔も、発生する

歯根の間隔も、発生する毛髪の間

隔も、皆そうである。

 

これは、もしかしたら街を形成する

仕組みと似ているのかもしれない。

街を形成する際、地形に合わせて

大きなビルを建てる。そのビルに

隣接するように次のビルを建てる。

そのビル群近くに、飲食店などの

サービス店舗が建ち並ぶ。その間

を縫うようにして道路ができる。

その道路沿いに草木が植えられる。

そのビルとビルの間隔や、店舗と

店舗の間隔、さらには道路と草木

の間隔、などは皆、目安の間隔が

あって、あまりにも距離が離れ過ぎ

ないように隣接されていくのである。

そして、それは設計図があり、どう

ビルとビルを隣接されるか?では

なくて、1つのビルが建てば、その

ビルを中心にして、隣同士になる

ようにまたビルが建てられ、さらに

正面に飲食店が並びというように、

設計図というよりは、お互いに

「会話」するかのようにシグナルを

出し合って、これがあったら便利!

という店舗が出来上がっていくの

であろう。道に草木があればいい

なあという場所に草木が植えられ

るのも同じ理由だ。お互いに「会話」

しているかのようなシグナルを送っ

ているのであろうから、街が地形に

合わせて出来上がっていくのだ。

 

細胞間のシグナル伝達が成し遂げる

のは複雑性の増大だけではない。

組織間の分量のバランスをとること

や、生体内の熱雑音から不可避的に

生じるエラーを修正することもそう

であり、どちらも柔軟性と関係が

ある。ある組織が他の組織に必要な

助けを求めたり(酸素がたりなくな

ると血管を呼び寄せるなど)、ある

組織の大きさが体の大きさに応じて

決まったり、間違った場所にいる

細胞が自殺したり、幹細胞由来の

細胞が出すシグナルによって幹細胞

自身の増殖が制御されていたりと、

発生の柔軟性を示す例には事欠かない。

 

こうした柔軟性の核心にあるのも、

シグナル伝達である。ただし単なる

シグナルではなく「フィードバック

ループ」になっているシグナル伝達

で、あるプロセスの結果がフィード

バックされてそのプロセス自体を制御

する。例えば、毛細血管が伸びて酸素

が供給されると、酸素を求めるシグ

ナルであるVEGFの産生が減少し、

毛細血管の伸びが止まるのだった。

結果がフィードバックされなければ、

酸素不足が解消されても毛細血管は

伸びつづけてしまう。このように、

結果がフィードバックされることで

細胞間コミュニケーションは文字通り

「会話」になり、シグナルの結果が

別のシグナルとなって直接、あるいは

間接的に戻ってくるので、細胞同士の

相互依存度が上がる。このループこそ

が、生体が外部の設計者や工事管理者

の手を借りることなく自らを作り上げ

られる鍵なのだろう。

建築現場の部材は工事の状況を感知

できないし、状況に応じて自分を変え

たりできないが、細胞にはそれができ

るのだ。細胞には建築現場の監督が

一歩下がって建物全体を見るように

胚全体を「見る」ことはできないが、

自分が正しく振る舞うために知るべき

ことは感知できる。

 

先の街の例での人間も同様だろう。

買い物客でごった返す店舗内や、

カップルでいっぱいのダンスホール

あるいは音楽ファンが詰めかけた

屋外ステージを見たら、誰もがひどく

ぶつかったり押し潰されたりしない

のは、何者かが全体を動かしている

からではない。各人がただ周囲の

状況に応じて自分の動きを決めている

だけだと知っている。つまり、群衆に

囲まれた私たちには、その場の全体が

どうなっているかを知るすべがないが、

人間の集合体そのものは自らを安全

かつ賢明なやり方で組織している。

 

これは「文明」についても言える。

個々人はごく一部の局所的な知識を

もとに行動しているだけである。

それにもかかわらず、文明はある程度

うまく組織されていて、時折、大恐慌

が発生するとはいえ、比較的堅牢だと

いっていいだろう。

家庭から社会まで、複数の人間から

なる組織はどの規模のものであっても、

わたしたちが熱心にコミュニケーション

をとることによって、自分達よりはるか

に規模の大きい組織を作りうるという

意味で、胚発生の理解の助けになるの

だろう。

 

 

にもかかわらず、第3次元:会社は、

設計図を構築し、その設計図どおりに

行動するように!と一般職員に命ずる。

その命令が途絶えれば、一般職員は

なにもしないか、遊び、仕事をしなく

なるのだ。

このようなモデルが正しいと思うか?

決して正しくはないだろう。

DNAから生物が誕生する過程でも、

なにもない更地から街が出来上がる

過程でも、同じく自己組織化のプロ

セスが取られるにもかかわらず、会社

の場合だけ、それがなされないのが、

おかしいということだ。

 

次回、もう少し、深掘りしてここを

検証していきたい。